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いえ

家

島崎 藤村

01 (上)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,748 字 · 254 页

青空文庫

彼女はお雪と夏物の交換などをした。

やがて迎の嘉助が郷里の方から出て来た。この大番頭も、急に年をとったように見えた。植物の好きなお種は、弟がある牧場の方から採って来たという谷の百合、それから城跡で見つけた黄な花の咲く野菊の根などを記念に携えて、弟の家族に別れを告げた。お種は自分の家を見るに堪えないような眼付をして、供の嘉助と一緒に、帰郷の旅に上った。

翌年の三月には、いよいよ三吉もこの長く住慣れた土地を離れて、東京の方へ引移ろうと思う人であった。種々な困難は彼の前に横たわっていた。一方には学校を控えていたから、思うように仕事も進捗らなかった。全く教師を辞めて、専心労作するとしても、猶一年程は要る。彼は既に三人の女の児の親である。その間、妻子を養うだけのものは是非とも用意して掛らなければ成らなかった。

とにかく、三吉は長い仕事を持って、山を下りようと決心した。

「オイ、洋服を出しとくれ」

とある日、三吉は妻に言付けた。三吉はある一人の友達を訪ねようとした。引越の仕度をするよりも何よりも、先ず友達の助力を得たいと思ったのである。

寒そうな馬車の喇叭が停車場寄の往来の方で起った。