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いえ
家
島崎 藤村
01 (上)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,748 字 · 254 页
と宗蔵は思出したように、「奥の床の間を見給え、文晁のイカモノが掛かってる。僕ならば友達の書いた物でも可いからホンモノを掛けて楽むネ」こう言って、何もかも不平で堪えられないような、病人らしい、可傷しい眼付をした。「僕に言わせると、ここの家の遣方は丁度あの文晁だ……皆な虚偽だ……虚偽の生活だ……」
あまり宗蔵が無遠慮な悪口をつき始めたので、お倉は夫の重荷を憐むような口調に成って行った。
「そう宗さんのように坊さんみたようなこと言ったって……何も交際の道具ですもの……もともと有って始めた事業じゃないんですもの……贅沢だ、贅沢だと言う人から、すこし考えてくれなくちゃ――こんな御菜じゃ食われないの、何のッて」と言ってお倉は三吉の方を見て、「ねえ三吉さん、兄さんにお刺身を取ったって、家の者に附けない時は有りまさあね」
「食わないのは、損だから……」
こう宗蔵は捨鉢の本性を顕わして、左の手で巻煙草を吸付けた。
その時、「三吉さん、御帰りだそうですね」と声を掛けながら、格子戸を開けて入って来た人があった。この人は稲垣と言って、近くに家を借りて、実の事業を助けている。