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いえ
家
島崎 藤村
01 (上)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,748 字 · 254 页
この兄弟の生涯は、喧嘩と、食物の奪合と、山の中の荒い遊戯とで始まったようなもので。実に引連れられて東京へ遊学に出た頃は、未だ互に小学校へ通う程の少年であった。丁度それは二番目の兄の森彦が山林事件の総代として始めて上京して、当時流行った猟虎の帽子を冠りながら奔走した頃のことで。その後、宗蔵の方は学校からある紙問屋へ移った。そこに勤めている間、よく三吉も洗濯物を抱えて訪ねて行くと、盲目縞の前垂を掛けた宗蔵がニコニコして出て来て、莚包の荷物の置いてある店の横で、互に蔵の壁に倚凭りながら、少年らしい言葉を取換した。「宗様、宗様」と村中の者に言われて育って来た奉公人の眼中には、大店の番頭もあったものではなかった。何か気に喰わぬことを言われた口惜まぎれに、十露盤で番頭の頭をブン擲ったのは、宗蔵が年季奉公の最後の日であった。流浪はそれから始まった。横浜あたりで逢ったある少婦から今の病気を受けたという彼の血気壮んな時代――その頃から、不自由な手足を提げて再び身内の懐へ帰って来るまで、その間どういう暗い生涯を送ったかということは、兄弟ですらよく知らない。母がまだ壮健でいる時、「宗蔵の身体には梅の花が咲いた」