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いえ
家
島崎 藤村
01 (上)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,748 字 · 254 页
などと戯れて、何卒して宗蔵の面倒を見て死にたい、と言いとおした。彼も今では、「三吉さん」とか、「オイ、君」とか話しかけて、弟より外に心を訴えるものの無い人である。
三吉が帰った翌日、宗蔵は一夏の間の病苦を聞いて貰おうと思って、先ず弟の旅の獲物から尋ねた。三吉は橋本の表座敷で木曾川の音を聞きながら書いた物を出して、宗蔵に見せた。一くさり、宗蔵は声を出して読んでみた。そして、「兄弟中で文学の解るものは、君と僕だけだよ」という心地を眼で言わせて、やがて部屋の片隅に置いてある本箱の方へ骨と皮ばかりのような足を運んだ。
床の間には、父忠寛と同時代の人で、しかも同村に生れた画家の遺した筆が古風な軸に成って掛っている。鳥を飼う支那風の人物の画である。その質素な色彩といかにも余念なく餌をくれている人物の容子とは、田舎にあった小泉の家に適わしいものである。
宗蔵は三吉が留守の間に書溜めた和歌の草稿を取出して、それを弟の前に展げた。
「三吉さんとはすこし時代が違うが、僕はまた一夏かかって、こういうものを作りましたよ。一つ批評して貰おう。君は木曾のような涼しい処に居たから好いサ――僕のことを考えてみ給え、こんな蒸暑い座敷で、汗をダラダラ流して……今年の夏は苦しかったからね」