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いえ

家

島崎 藤村

01 (上)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,748 字 · 254 页

青空文庫

こうお倉も嘆息した。

故郷にあった小泉の家――その焼けない前のことは、何時までもお倉に取って忘れられなかった。橋本の写真を見るにつけても、彼女はそれを言出さずにいられなかった。三吉は又たこの嫂の話を聞いて、旧い旧い記憶を引出されるような気がした。門の内には古い椿の樹が有って、よくその実で油を絞ったものだ。大名を泊める為に設けたとかいう玄関の次には、母や嫂の機を織る場所に使用った板の間もあった。広い部屋がいくつか有って、そこから美濃の平野が遠く絵のように眺められた。阿爺の書院の前には松、牡丹なども有った。寒くなると、毎朝家のものが集って、土地の習慣として焼たての芋焼餅に大根おろしを添えて、その息の出るやつをフウフウ言って食い、夜に成れば顔の熱るような火を焚いて、百姓の爺が草履を作りながら、奥山で狐火の燃える話などをした、そういう楽しい炉辺もあった。

小泉の家の昔を説出した嫂は、更にずっと旧いことまで覚えていて、それを弟達に話し聞かせた。嫂に言わせると、幾百年の前、故郷の山村を開拓したものは兄弟の先祖で、その昔は小泉の家と、問屋と、峠のお頭と、この三軒しかなかった。