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いえ
家
島崎 藤村
01 (上)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,748 字 · 254 页
坂の途中を横に折れると、百合、豆などの種類が好く整理して植付けてある。青い暗い南瓜棚の下を通って、二人は百姓の隠居の働いているところへ出た。
石垣に近く、花園を歩むような楽しい小径もあった。そこから谷底の町の一部を下瞰すことが出来る。
お種は眺め入りながら、
「私も、橋本へ来てからこの歳に成るまで、町へ出たことが無いと言っても可い位……真実に家の内にばかり引込みきりなんですよ……用が有る時はどうするなんて、三吉なぞは不思議に思うかも知れないが、買物には小僧も居れば、下婢も居る。嘉助始め皆なで外の用を好く達してくれる。ですから、私は家を出ないものとしていますよ……女というものは、お前さん、こうしたものですからね」
こんな話を弟にして聞かせて、それから直樹が訪ねて行った親戚の家々を指して見せた。いずれも風雪を凌ぐ為に石を載せた板屋根で、深い木曾山中の空気に好く調和して見える。
「母親さん、沢田さんがお出た」
とそこへお仙が客のあることを知らせに来た。三人は一緒に母屋の方へ降りて行った。
物置蔵の側を帰りかけた頃、お種は娘と並んで歩きながら、
「お仙や、お前は三吉叔父さん、三吉叔父さんと、毎日言い暮していたッけが――どうだね、三吉叔父さんが被入しって嬉しいかね」