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いえ
家
島崎 藤村
01 (上)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,748 字 · 254 页
その晩はある音楽者の客もあって、火鉢が何個も出た。ここはすべてが取片付けてあって、あまり部屋を飾る物も置いて無い。子供のある家で、時々泣出す声も聞える。六つばかりに成る、色の白い、髪を垂下げた娘が、曾根の傍へ来て、三吉夫婦に御辞儀をした。
「まあ、可愛らしいお娘さんですね」
とお雪が言うと、娘は神経質らしい容子をして、やがてキマリが悪そうに出て行った。
お雪から見ると、曾根は年長だった。お雪の眼には、憂鬱な、気心の知れない、隠そう隠そうとして深く自分を包んでいるような、まだまだ若く見える女が映った。曾根は最早いろいろな境涯を通り越して来たような人であった。言葉も少なかった。
客もあったので、夫婦は長くも居なかった。小泉の兄の家へ帰ってから、三吉はこんな風に妻に尋ねてみた。
「どうだね、あの人達は」
「そうですね……」
とお雪は返事に窮った。交際って見た上でなければ、彼女には何とも言ってみようが無かった。
翌日の午後、三吉達は東京を発つことにした。買物やら、荷造やら、いそがしい思をした。その時、三吉は実の居るところへ行って、一と先ず宗蔵の世話を断った。
「あれはすこし無理だった――俺の方が無理だった」