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かんのうめ
寒の梅
宮本 百合子
「文芸」1939(昭和14)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,819 字 · 8 页
透明なものは生と死で、切迫した時間のうちにキリキリといくつか廻り、生がこっち向いてぴたッと停った、そんな感じだ。これは異様な、愕きをともなった感覚であって、まるで風の音もきこえない暖い病室で臥たり、笑ったりしている平穏な自分の内部に折々名状しがたい瞬間となって浮び出て来る。やっぱり腹を切るというのは相当のこと也。
○ 手術した晩に、安らかな気持なのだが頭の中がオレンジ色がかった明るさで、いかにも譫語が云いたくてたまらなかったのは面白い。薬のためにああいう状態になっているときの譫語は、全く我を知らずに口走るのではなくて、先ず、何かとりとめなく喋りたいという明瞭な欲望が感じられた。ああいうとき、頭でも撫でられていたら、その欲望に身をまかせてきっと、どっさり喋っただろうと思う。傷の癒着と、こういう全身的な衝撃の余韻とがおなじテムポで消えないで、傷は日に日によくなっても、疲れが奥深いところにある。
○ 鴎外の「妻への手紙」。明治三十七八年という時代の色、匂いが何と高いだろう。手紙の書かれた環境も、部分的ではあるがまざまざと見える。鴎外は、お前さんという呼びかたで夫人をよび、子供の着物のきせかたから、良人の心をうたった和歌の解釈までしてやっている。