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てらだとらひこのついそう
寺田寅彦の追想
中谷 宇吉郎
「寺田寅彦の追想」甲文社、1947(昭和22)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,683 字 · 40 页
そして紅茶を飲んで『寅彦夏話』をしては帰られた。昼の弁当は、私たちは出前の洋食弁当なるもので済ませていたが、先生は大抵大学の「御殿」へ行くか、外へ出かけられた。そのうちに八月中頃になって、出前も「御殿」も休業になったので、皆で病院の職員食堂へ行くことにした。此処だけは年中無休であった。私たちは二十五銭の定食をとることに決まっていたが、いくらその頃といっても、あまり結構なものではなかった。先生は「松」とか「梅」とかいう上等な方を注文されたが、その都度「僕はどうも胃がまだ変なので」と言いながら、きまり悪そうににやりとされた。或る時私達の定食に、小鯛の煮付がついたことがあった。その時先生が一寸覗き込むようにして「なかなか御馳走だね」と、にこにこされた。そういう極めて小さいことが、妙に印象に残っている。
水素の燃焼の実験が大分面白くなり、あの光の弱い燃焼の伝播状態が、廻転フイルム上で写真に撮れるようになった。それはその年の秋の末頃であった。そこへ突然に『球皮事件』が起きた。この事件は、前に随筆に書いたのは、いわば表通りだけであって、その裏にはいろいろな問題があった。