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あひるとさる

寺田寅彦随筆集 第五巻

寺田 寅彦

寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第五巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:あひると猿、疑問と空想、映画と生理、映画雑感(Ⅲ)、映画雑感(Ⅳ)、災難雑考、三斜晶系、糸車、詩と官能、自由画稿、小浅間、小爆発二件、地図をながめて、天災と国防、日本人の自然観、破片、俳句の型式とその進化、俳句の精神、物売りの声、B教授の死。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,515 字 · 389 页

青空文庫

七夕祭りの祭壇に麻や口紅の小皿といっしょにこのおはぐろ筆を添えて織女にささげたという記憶もある。こういうものを供えて星を祭った昔の女の心根には今の若い婦人たちの胸の中のどこを捜してもないような情緒の動きがあったのではないかという気もするのである。

今の娘たちから見ると、眉を落とし歯を涅めた昔の女の顔は化け物のように見えるかもしれない。しかし、逆にまた、今の近代嬢の髪を切りつめ眉毛を描き立て、コティーの色おしろいを顔に塗り、キューテックの染料で爪を染め、きつね一匹をまるごと首に巻きつけ、大蛇の皮の靴を爪立ってはき歩く姿を昔の女の眼前に出現させたらどうであったか。やはり相当立派な化け物としか思われなかったであろう。

去年の夏数寄屋橋の電車停留場安全地帯に一人の西洋婦人が派手な大柄の更紗の服をすそ短かに着て日傘をさしているのを見た。近づいて見ると素足に草履をはいている。そうして足の指の爪を毒々しいまっかな色に染めているのであった。なんとも言われぬ恐ろしい気持ちがした。何かしら獣か爬虫のうちによく似た感じのものがあるのを思い出そうとして思い出せなかった。