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あひるとさる

寺田寅彦随筆集 第五巻

寺田 寅彦

寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第五巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:あひると猿、疑問と空想、映画と生理、映画雑感(Ⅲ)、映画雑感(Ⅳ)、災難雑考、三斜晶系、糸車、詩と官能、自由画稿、小浅間、小爆発二件、地図をながめて、天災と国防、日本人の自然観、破片、俳句の型式とその進化、俳句の精神、物売りの声、B教授の死。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,515 字 · 389 页

青空文庫

破片

一

昭和九年八月三日の朝、駒込三の三四九、甘納豆製造業渡辺忠吾氏(二七)が巣鴨警察署衛生係へ出頭し「十日ほど前から晴天の日は約二千、曇天でも約五百匹くらいの蜜蜂が甘納豆製造工場に来襲して困る」と訴え出たという記事が四日の夕刊に出ていた。

これがどの程度に稀有な現象だか自分には判断できないが、聞くのは初めてである。

今年の天候異常で七月中晴天が少なかったために、何か特殊な、蜜蜂の採蜜資料になるべき花のできが悪かったか、あるいは開花がおくれたといったような理由があるのではないかとも想像される。

近ごろ見た書物に、蜜蜂が花野の中で、つぼみと、咲いた花とを識別するのは、彼らにものの形状を弁別する能力のあるためだということが書いてあった。すなわち星形や十字形のものと、円形のものとを見分けることができるというのである。

しかし甘納豆の場合にはこの物の形が蜂を誘うたとは思われない。何か嗅覚類似の感官にでもよるのか、それとも、偶然工場に舞い込んだ一匹が思いもかけぬ甘納豆の鉱山をなめ知っておおぜいの仲間に知らせたのか、自分には判断の手掛かりがない。

それはとにかく、現代日本の新聞の社会面記事として、こういうのは珍しい科学的な特種である。