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あひるとさる

寺田寅彦随筆集 第五巻

寺田 寅彦

寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第五巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:あひると猿、疑問と空想、映画と生理、映画雑感(Ⅲ)、映画雑感(Ⅳ)、災難雑考、三斜晶系、糸車、詩と官能、自由画稿、小浅間、小爆発二件、地図をながめて、天災と国防、日本人の自然観、破片、俳句の型式とその進化、俳句の精神、物売りの声、B教授の死。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,515 字 · 389 页

青空文庫

いかなる悲痛な境遇でもそれを客観した瞬間にはもはや自分の悲しみではない。

歌人と俳人とではあるいは先天的に体質、従ってそれによって支配される精神的素質がちがっているのではないかという想像さえ起こし得られる。近ごろ流行の言葉を使えば、体内各種のホルモンの分泌のバランスいかんが俳人と歌人とを決定するのではないかという気もする。これはしかるべき生理学者の研究題目になりうるのではないかと思われる。

それはいずれにしても、上述のごとき俳句における作者の自己の特殊な立場は必然の結果として俳句に内省的自己批評的あるいは哲学的なにおいを付加する。「風流」といい「さび」というのも畢竟は自己を反省し批評することによってのみ獲得し得られる「心の自由」があって、はじめて達し得られる境地であろうと思われる。

風流とかさびとかいう言葉が通例消極的な遁世的な意味にのみ解釈され、使用されて来た。これには歴史的にそうなるべき理由があった。すなわち仏教伝来以後今日まで日本国民の間に浸潤した無常観が自然の勢いで俳句の中にも浸透したからである。しかし自分の見るところでは、これは偶然のことであって決して俳句の精神と本質的に連関しているものとは思われない。