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ちいさきいえのせいかつ
小さき家の生活
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房、1953(昭和28)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,540 字 · 18 页
が、もう、それを云っても仕方がない。
動くと気分悪く、神経的嘔気を催すので、部屋の敷居の処に倚りかかり、指図をして、近所の蕎麦屋へ行かせた。
職人にやる金を包み、皆に蕎麦を食べさせ、裏の家と医者の家に配り終ったのは、もう夕暮に近かった。
H町に居ては、見られない鮮やかな夕映が、一目で遠く見渡せる。
崖に面した四尺ばかりの塀際には背の高い「ひば」が四本一列に植って居る。その、デリケートな葉が黒く浮立ち、華やかな彼方の色彩に黒レースをかけたように優雅である。
まつを、いつまでも止めて置くことは出来ないので、我々の夕飯の仕度に鰻を云いつけさせて、帰した。
急に四辺が、ひっそりとする。
自分は思わず、真心をこめてAをエムブレスした。何と云う感銘の深い夕暮だろう。
Aはおなかが空いて居るのを知り、いつまでも食事が出来ないのを気の毒に思った。やっと、八時頃、命じたものが来る。
自分は、八畳の灯の下に、一閑張の小机を出し、白く糊の新らしいサビエットを拡げ、夕餐の用意をした。お茶を飲もうとする茶碗も、箸箱も、皆、今度新らしく二人で買い調えたものだ。
卓子に向って坐ると、二人は、感動し、我知らず祈を捧げる心持になった。