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ちいさきものへ
小さき者へ
有島 武郎
「新潮」1918(大正7)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,154 字 · 21 页
何故二人の肉慾の結果を天からの賜物のように思わねばならぬのか。家庭の建立に費す労力と精力とを自分は他に用うべきではなかったのか。
私は自分の心の乱れからお前たちの母上を屡々泣かせたり淋しがらせたりした。またお前たちを没義道に取りあつかった。お前達が少し執念く泣いたりいがんだりする声を聞くと、私は何か残虐な事をしないではいられなかった。原稿紙にでも向っていた時に、お前たちの母上が、小さな家事上の相談を持って来たり、お前たちが泣き騒いだりしたりすると、私は思わず机をたたいて立上ったりした。そして後ではたまらない淋しさに襲われるのを知りぬいていながら、激しい言葉を遣ったり、厳しい折檻をお前たちに加えたりした。
然し運命が私の我儘と無理解とを罰する時が来た。どうしてもお前達を子守に任せておけないで、毎晩お前たち三人を自分の枕許や、左右に臥らして、夜通し一人を寝かしつけたり、一人に牛乳を温めてあてがったり、一人に小用をさせたりして、碌々熟睡する暇もなく愛の限りを尽したお前たちの母上が、四十一度という恐ろしい熱を出してどっと床についた時の驚きもさる事ではあるが、診察に来てくれた二人の医師が口を揃えて、結核の徴候があるといった時には、私は唯訳もなく青くなってしまった。