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こゆびいっぽんのおおじあい
小指一本の大試合
山中 峯太郎
「少年倶楽部」講談社、1931(昭和6)年1月号
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 5,932 字 · 13 页
ぼくは背広服の上着をぬいだきりだ。柔道の稽古着も持ってないし、わざと平気な顔をして出ていくと、
「ワーッ」と、四方の見物席はたいへんなさわぎだ。そこでブルとぼくが両方にはなれて立った。
審判官のフランクが、時計を見ながら、
「はじめ!」と、ふるえ声でいった。第一回の勝負は三分できめるんだ。
見ると、ブル、今日はまた一だんとすごい顔をしかめて、両手を前につき出しながら、ジリジリ、ジリジリとよってくる。――きたナ! と、ぼくも身がまえながら、ヒョイと顔の前に左の小指を出してふった。すると、
「ワアーッ! ワア――」と、何千人という見物人が声をあげて、パチパチと手をたたくひびきが雷のようだ。
試合の挿絵
ブルがまっかになった。ぼくの小指を、にらみながら、目が血ばしってる。ぼくはヒクヒクとまた小指をふって見せた。ブルがまっさおになってきた。小指一本が、どんな術があるのかと、気味がわるいらしい。一メートルほど前から近よってこない。両腕を上下につき出して、顔を低くして、一生けんめいに、ぼくの小指を、にらんでる。そのまま身うごきもしない。こうなると、ぼくは急に愉快になってきた。