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こむらたんさい

小村淡彩

宮本 百合子

「女性」1926(大正15)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,488 字 · 23 页

青空文庫

「ええ」

「大丈夫だね、よそへなんか置いて来ちゃあいやだよ」

「あのう、畑んとこの家でしょう? 子供のいる」

「そうそう。もう日が翳(かげ)ったから傘なしで行けるよ」

一時間余り、いしは、いそがしい思いをした。県庁の社会課の役人が、××寺で講演会をしに来た。六人前、酒が出た。不図気がつくといそがしい訳であった。ろくがまだ帰って来ていない。彼女は、

「幾時間かかるんだろう! たった三四丁のところへ行くのに」

と独言したきり、まぎれた。が、程経って、上気(のぼせ)た顔付でせきが、

「おろくさんまだですか、手が足りなくて」

と出て来た。いしは、時計を見ておどろいた。日が永い最中で、まだ薄明りこそあるが、七時すぎていた。ろくの出たのは、五時頃であった。二時間たっぷり、何処をぶらぶらしているのだろう。ろくがああいうろくなので、いしは、怒るより少し心配になって来た。彼女は手がすくと、裏でポンプの工合をなおしている亭主のところへ行った。

「あの子ったら、まだ帰らないんだけれど――まさか汽車に轢かれたんじゃああるまいね」

「人を轢きゃあ非常汽笛を鳴らすよ」

いしは、舌打ちをして家に入った。