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こむらたんさい

小村淡彩

宮本 百合子

「女性」1926(大正15)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,488 字 · 23 页

青空文庫

駐在は、始りの緊張を失い、ろくの愚しさを慰むように、次から次へ、

「それから、もうないか」

と訊いた。ろくは、隠すと、牢にでも入れられるかと思うらしく、本当に正直に答えた。

「いいえ……あの巡査さんも……」

駐在は、

「ふむ」

と、妙な咳払いをした。いしは、どんなに笑い出したかったろう。

「それぎりか」

ろくは、一層途方に暮れて見えた。彼女は、手の甲で、幾度も幾度も涙を拭きながら、やっと云った。

「子供が……子供が……」

いしは、眼を瞠った。

「子供がどうしたんだい、お前さん子供があるの?」

ろくは、また合点をした。

「どこにさ? 親んところにかい?」

ろくは、首を横に振った。いしは、瞳が寄るほど力を入れてろくを見た。

「――お前ったら……おなかが大っきいんかい? じゃあ」

ろくは、ぼっくり頷いた。皆黙ってしまった。駐在は、程なく手持無沙汰に立ち上った。

「じゃあ……兎に角今度のところは、本人の意志から出たことらしいから、このまま黙許してやるから……今後ともよく注意して。何かあると店のためにもならんよ」

「どうも……まことに……」

いしは、駐在を送り出すと、立てつづけに煙草を吸った。