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こむらたんさい
小村淡彩
宮本 百合子
「女性」1926(大正15)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,488 字 · 23 页
重次は、ぽつりぽつり云った。
「そうともよ、それにその娘あ、まあ次第によっちゃあ、お前(め)えんところから嫁の世話でも仕て貰いてえ位に思ってるらしいから落付くだろう」
いしは、早く当人を見たいと思った。
「それでなにかい、その娘は今逗子にいるんですか」
「いいや、もう来ているのさ」
「何処に? この土地にかい?」
「ああここに」
「ここに? なあんだ! そいじゃあ一緒に来たわけかい、馬鹿馬鹿しい、お前さん、何だって今まで黙ってるんだよ、可笑しな人っちゃあありゃあしない」
いしは、笑いながら、四枚閉る硝子戸の方をすかすようにして声をかけた。
「さあ、一寸お前さん、入っておくんなさい、ちっとも遠慮はいらないよ」
重次に、
「何て名だい」
と訊きながら、薄暗い土間に現われる娘の姿を、いしは熱心に見た。
「おい、ろく公、這入んな」
のそりと、硝子の彼方から、ろくは土間に入って来た。にやにや笑いながら、低い入口の敷居を、妙に念に念を入れて片足ずつ大がかりに跨いで。火鉢の前にいるいしを認めると、ろくは、ぽくりと上体をまげて礼をし、そこに突立った。いしは、電燈の灯の下でさえ黒く、しまりなく、薄汚く見える娘の顔を見ると、元気のよかった笑顔を酸ぱいように口許で皺めた。