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こばやしひでおとび

小林秀雄と美

中谷 宇吉郎

「小林秀雄全集月報第五号」新潮社、1956(昭和31)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,137 字 · 7 页

青空文庫

その点では、小林秀雄のようなことを言うのは、甚だよろしくない。しかし芸術と民主主義との調和は、なかなかむつかしい。フランス革命のあと、自由と平等とが叫ばれたときに、一番喜んだのはセーヌの道端で絵を売っていた画家たちだったそうである。「明日から、俺たちの絵も、ルーベンスと同じ値段で売れることになるんだ」と、皆で大いに祝杯をあげた。しかしなかなかそうは行かなかった。

それでは芸術の世界では、大衆性を無視してもかまわないかというと、それは明らかに間違いである。極端な場合を考えてみれば、すぐわかることで、世界中の人間の全部が、その美を認めない作品は「どんなに優れたものでも」立派な芸術品とは言えない。というよりも、芸術の範疇には、はいらないもので、「優れた」という言葉自身に意味がない。

そうかといって、大勢の人が、美しいといっても、それだけで、立派な芸術品であるとは限らない。もっとも芸術の定義の問題であるが。例えば、雪舟の山水長巻と、下町の銭湯で見る富士山のペンキ画とを竝べて、どっちを美しいと思うかという国民投票をしたら、恐らく富士山の方が勝つであろう。写楽の浮世絵が一束何十銭で買えたこともある。