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こいわいのいっか

小祝の一家

宮本 百合子

「文芸」1934(昭和9)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,193 字 · 31 页

青空文庫

瞼に力を入れ、真剣に云った。

「何されっかしんないよ」

金になることなら何でもしかねない。自分のいるカフェーへ押しかけて来る位ならまだましだ。そう思って乙女はお石に恐怖を感じた。そのとき、祖母ちゃんは、わかったような、分らないような工合で、

「そうだなあ」

と答えていたが、寝てから考えたと見え、次の朝、台所のバケツで乙女が勉のシャツを洗っていると、わきへ来て洗濯ものをかき廻そうとするミツ子をおさえながら、

「――伯母は、きのう来たとき、乙女も赤の手つだいしているんだろと、云っておった」

と報告するように告げた。

「ほーれ、見な! 祖母ちゃん何て云った?」

「――カフエに出ておるもん、カフエに出ておると云ったけんどさ」

乙女は、自分のいない留守を心配し、

「祖父ちゃんにもようく云っときな、ねえ」

と注意した。この頃、貞之助は天気がよければ古い乳母車を押して、子供対手の駄菓子を売りに歩いていた。

夕方、およそ勇とかつかつの時刻に家の近くまで戻って来ると、祖父ちゃんは用心して裏の露路から空身で入り、お石のいないのを確かめて表へ乳母車を押してまわった。一度かち合って、貞之助は細い売り上げの中からお石に十銭とられた。