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こいわいのいっか

小祝の一家

宮本 百合子

「文芸」1934(昭和9)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,193 字 · 31 页

青空文庫

今では、動かし難くはっきり乙女にそのことが会得された。万一そういうとき、それでもと勉にからみ、恥かしい目を見せることは乙女にとても出来なく思われた。プロレタリアの運動の価うちと勉のねうちがいつしか身にしみこみすぎている。乙女は、それらのことを考え、勉が家を出てから初めて、枕の上に顔を仰向けたままミツ子を抱いて永いこと睡らなかった。

もうセルの時候であった。

明るい、細い雨がよく降った。雨ふりだと、しっとり濡れた前の杉苗畑から、若々しい杉の樹脂の香いが微かに漂って来て戸棚にアヤの骨壺がしまってある二間の家の縁ばたに匂った。

おそ番の日で、乙女が勉のテーブルに向い本を読んでいた。こんな天気で商いに出られない祖父ちゃんが長いことかかって新聞をよんでいたが、やがて、

「おウ」

火のない煙管を口からはなして乙女をよんだ。

「こんげにつらまっても、かまわぬものか?」

乙女は何事かと思い、

「どれ?」

立って行って新聞をのぞいた。三面の隅に、江東の職業紹介所で全協の労働者が二人あげられたことが数行出ているのであった。

祖父ちゃんの新聞のよみかたが違って来た。乙女はそれを最近につよく感じた。