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こいわいのいっか

小祝の一家

宮本 百合子

「文芸」1934(昭和9)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,193 字 · 31 页

青空文庫

A市は東北飢饉地方にまきこまれていた。戦争になってからこの地方一帯の農家の困りかたは甚しかった。暮に、若者を兵隊に出した家のおっかあ連がかたまって戦地からかえせと押しかけたような事件もあった。川風が凍みるからと云って、焼き立ての「おやき」の熱いところを懐へ入れ、それを喰い喰い夜遊びから帰る若者が減るのは当然のことであった。そんな小銭がつかえる者は「おやき」をやめて、ワンタン屋の屋台に入った。

勉は、真面目にそういう世の中の有様を説明し、自分たちの生活の窮迫の原因をも、そういうものとして貞之助の納得のゆくように書き、わきに、この手紙は勇にも必ず読ますようにと書き添えたのであった。

程経って来た貞之助の手紙は、そういう勉の努力が全く無駄であることを示した。貞之助は鈍重な狡さを働かせ、暮しの行詰りの全責任をこの機会に長男である勉の肩にうつしてしまおうと、孫のミツ子をかせにつかいはじめたのであった。その時、勉は体にあわせてひどく大きい口元をパフパフというように動かし、乙女を鋭い視線で見て、

「俺は十八まで散髪に行ったこともなければ、猿又を買ってはいたことだってなかったんだ!」