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こいわいのいっか
小祝の一家
宮本 百合子
「文芸」1934(昭和9)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,193 字 · 31 页
と云った。好きな本を買う銭をとるために、勉は郵便局がひけてから、夜、繩工場へ通ったのであった。同じ繩工場へおふくろのまきも通った。そして、勉の髪を刈るバリカンと猿又を縫う布とを買い、末娘のひ弱いアヤの薬代を払った。
勉は、そのおやじの手紙は焼いてしまった。何かで家をかきまわされたとき、そんな手紙が出、それを口実に運動をやめろなどと云われたら癪である。彼はそう思ったのであった。
乙女は勉の憤る心持を同感したが、大きく二重瞼の眼を見開いて中耳炎以来変に髪が薄くなった夫の顔をながめ、
「――祖父ちゃん、ミツ子をいびってないだろうかね」
と静かに云った。乙女の声には、二重の心づかいが響いた。自分がミツ子一人ぐらいを育てかね、たださえ苦労の多い勉に家庭的な心労までかける。それを、ひけ目に感じるのであった。
今年、田舎の二十日正月がすんだ頃、アヤが、下手な、それでいて画のはっきりした字で、祖母ちゃんはこの頃死にたがってばかりいます、死ぬかと思って私は心配ですという手紙をよこした。重たい孫をおんぶって、強情な祖父ちゃんとの間にはさまり、苦心に疲れている半白の小ぢんまりした母親のおとなしく賢い顔つきが勉の目に髣髴とした。