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こいわいのいっか

小祝の一家

宮本 百合子

「文芸」1934(昭和9)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,193 字 · 31 页

青空文庫

床に入って、顔を障子の方に向けているだけで、乙女は眠ってはいなかった。勉が、お前さきへねれ、そういうときは、何もきかず床に入るか、台所わきの三畳へ行くかするのが、乙女の常識となっているのであった。

勉は、こまかい字で物を書いている間、ときどき掻巻の袖から左の指先を出して、耳の傷を押した。骨を削られて耳の後はぺこんとへこみ、ガーゼがつめられてある。寒さと疲労とで、今もそこがずきずき痛み、頭の半分が重たい。その耳のうしろには手術の傷のほかにもう一つ、ひどいひきつれの跡があった。それは一九三〇年の冬、勉が「文戦」の方針に不服で脱退し、「戦旗」の活動に参加した当時、「文戦」の鳥打帽の写真で知られている石藤雲夫に、焼ごてを押しつけられたひきつれであった。

二

祖父ちゃん。祖母ちゃん。アヤ子。勇。それにミツ子。これだけの人々が、間もなく上野のステーションから様々な色と形の風呂敷づつみと一緒に無言のまま小祝の二間のトタン屋根の下へ運びこまれ、床の間の上へまで煤くさい、どれをあけても襤褸に似たもののつまった包みを積みかさねて生活しはじめた。

勉夫婦の暮しぶりは変った。