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しょうせつちゅうのおんな
小説中の女
豊島 与志雄
「サンデー毎日」1923(大正12)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,887 字 · 16 页
それが一寸困った。みさ子は二十一二歳でなければいけなかった。けれど、年齢の差くらいはどうにでもなる、と私は思い返した。硬ばった額の皮膚を、毳のありそうな柔かい薄い皮膚に代え、眼の奥の潤みを多くし、唇の肉付を薄め、指の節をまるめ、爪の生え際の深みを浅くし、首筋の肉をぼやぼやとさせれば、それで若やぐのだったから。
そんなことを考えてるうちに、汽車はもう進行しだしていた。彼女は向き直って、控え目な視線でちらと車室の中を刷いて、それからぼんやり、膝の小型な金縁の書物に眼を落しながら、いい加減に読んでいる――というよりも寧ろ、取り留めもない夢想に耽っているらしかった。その正面の顔立を見て、私は一寸息をこらした。みさ子そっくりだったのである。
房々とした髪の影を落してる彼女の額は、心持ち狭くて淋しみを湛えていた。白々としたその皮膚が、余り広くない知識を思わせた。理解しようとすまいと、そんなことに頓着なく、一種の皮肉と憂鬱とで、何かしら自分にも分らない要求から、翻訳小説を読み耽ってる、みさ子の額、小さな活字の上に屈めた額、そのままだった。――ずっと一筆で刷いたようにくっきりとして、細長く消えてる淋しい彼女の眉が、みさ子の眉に丁度ふさわしかった。