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しょうせつちゅうのおんな

小説中の女

豊島 与志雄

「サンデー毎日」1923(大正12)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,887 字 · 16 页

青空文庫

未来の劇作家を以て自任してる或る大学生と、みさ子は恋をしていたが、余り長続きしそうもないその恋を思わせる眉だった。――彼女の眼は、妙に見透せない影に包まれて、その底に何か冷たいものを含んでいた。脹らみのない薄い眼瞼、長い睫毛、小さな黒目、そして眼尻にあるかないかのかすかな凹み。私はその伏せられてる眼をじっと窺って、一寸みさ子からはぐらかされた気持になった。みさ子はもっと露わな眼付を持ってる筈だった。然し今に彼女の眼が挙げられて、私の方を向いたら、或はみさ子の眼になるかも知れない……などと考えて、私は彼女の視線を待ち受けたが、彼女はいつまでも私の方を見てくれなかった。で私は眼を後廻しにして、先へ進んでいった。

彼女の鼻は、日本人にしては高すぎるくらいに、急角度で細く聳えていた。或は鼻筋の上の一際濃い白粉のせいで、そう見えるのかも知れなかった。が何れにしても、みさ子の鼻はそれほど高くなくてよかった。遠くから見て、鼻が眼につく顔立ではなかった。然し或は彼女の鼻も、高いわりに細そりとしてるので、遠くから見たら余り眼につかないかも知れない……。がそれは大して関係のないことだった。