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しょうねんのし

少年の死

豊島 与志雄

「新潮」1916(大正5)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,400 字 · 27 页

青空文庫

朝彼は酒ぐさい息をしてよく帰って来た。そんな時は屹度、四時頃彼がまた夜勤に出かける時一騒動が起るのであった。

庄吉はそんなことを傍からじっと見ていた。そして彼の心に映ずる世間も次第に複雑になっていった。

大留の仕事場でも彼は物影から種々な話をきいた。彦さんと音さんはよく棟梁の居ない時なんか面白い話をして笑い合っていた。

「れこ」とか「張る」とか「なか」とかいう言葉がよく彼等の口から洩れた。

庄吉はいつしかそれらの言葉の意味を覚えてしまった。

「おい庄吉、」と小僧の惣吉は呼びかけた。「お前の小父さんの妹はお女郎だそうだい。親方がちょいちょい寄ることがあるんだとよ。」

そういって彼は妙な薄ら笑いをした。

然し庄吉はまた、大留の遊びを余り深入りさせないために惣吉は内々お主婦さんから大留につけられているのだ、ということをも知っていた。

そのお女郎という金次郎の妹が一度家に帰って来たことがあった、大きい髷に結って白く鉛白をつけ、柔いものを着て草履をはいていた。庄吉が大留の仕事場から帰った時は、もう皆で酒を飲んでいた。そしてその晩は金さんも飲めるだけ酒を飲ませられた。