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いけぶくろのみせ

山之口貘詩文集

山之口 貘

山之口貘『山之口貘詩文集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:池袋の店、沖縄帰郷始末記、おきなわやまとぐち、声をあげて泣く、詩とはなにか、装幀の悩み、つまり詩は亡びる、夏向きの一夜、野宿、暴風への郷愁、私の青年時代、ダルマ船日記、チャンプルー。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,477 字 · 93 页

青空文庫

野宿

あとになって、きいたことなのであるが、ずっと前にそこに住んでいたうちの娘さんが、毒をのんで便所のなかで死んでいたという噂のある家なのである。近所のおかみさんの話によると、この家に引っ越してくる人は、みんな、四五日も居たか居ないかのうちに、すぐにまたどこかへ引っ越して行くんだそうで、

「お宅が一番ながいんですよ」と云った。云われてみれば、この家にぼくらが来てから、もう半年も過ぎようとしていたのである。そして、住み心地も、おかみさんの話と、まったく辻褄があっているのであった。そんなわけの家なので、居候のくせにと自分でおもいながらも、ぼくはひとりで留守番をすることが出来ず、波里さんが出掛ける時には、いつもいっしょについて出掛けて、いっしょに帰ってくるのである。それでも、用足しによっては、ぼくがいっしょでは都合のわるい時もあって、そういう時には波里さんの帰りの時間をきいておいて、その間をぼくはあてもなく街をさまよい、駒込の橋の上で波里さんの帰りを待ち合わせて、いっしょに帰ってくることにしたのである。

ぼくは、一日も早く郷里へ帰りたかった。父からの仕送りを前提にして、上京はしてみたものの、上京早々から父との約束はあてが外れてしまって、早稲田の戸塚から本郷の湯島新花町、そして、台町から駒込の片町、それからこの中里の