轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

いけぶくろのみせ

山之口貘詩文集

山之口 貘

山之口貘『山之口貘詩文集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:池袋の店、沖縄帰郷始末記、おきなわやまとぐち、声をあげて泣く、詩とはなにか、装幀の悩み、つまり詩は亡びる、夏向きの一夜、野宿、暴風への郷愁、私の青年時代、ダルマ船日記、チャンプルー。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,477 字 · 93 页

青空文庫

「そんなに貸す金があるんですか」ときくと、母はまた涙ぐんでしまって、そのたびに父が、銀行の金を持ち出しているのだと云うのである。父は、銀行のその日の仕事が済むと、黙々として、双眼鏡を片手に浜辺へ出た。そして、暮れるまで、浜辺の白砂の上に立ちつくして、水平線の彼方に双眼鏡を向けつづけているのである。しかし、父の船は、毎日手ぶらで帰って来た。あるときのこと、珍らしく父に誘われて、ぼくはその鰹節製造工場を見に行った。半途程先の海辺の砂地の上に、藁葺の工場が、陽に照りつけられて立っていた。父の船は父の名を名づけて重珍丸なのである。いま、漁から帰ったばかりのところで、二、三十本の鰹が重珍丸から運ばれた。まもなく船頭さんのおかみさんが、大きな皿に刺身を盛って持って来た。刺身は新鮮と云っただけでは云いたりないほど新鮮すぎていて、ところどころに、まだひくひくと動いているのが見受けられて、すぐには箸を持つ気になれなかった。

ぼくが、重珍丸の漁を見たのは、後にも先にもその時だけなのである。父は、相変らず毎日、双眼鏡を片手に海辺に立ちつくしたのであるが、重珍丸は手ぶらで帰って来た。