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やまぶきちょうのさつじん

山吹町の殺人

平林 初之輔

「新青年」1927(昭和2)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,530 字 · 37 页

青空文庫

自動車が署の前でとまると、上野は急いでとびおりて佐々木警部の室(しつ)へかけこんだ。

「大宅はもうつれて来ましたか?」

「もう帰って来る時分です」と佐々木は柱時計を見ながら答えた。上野はいそいで言葉をつづけた。

「木見という男は山吹町へ行きましたから、貴方(あなた)の部下の刑事たちに様子を見せにやりました。大成功ですよ。もう三十分のうちに犯人は逮捕されます」

「いや、もう既に逮捕されてしまっているのです、ほら帰って来ました」

一台の自動車が×××署の構内へ徐行してはいって来た。中からは私服刑事が四五人もぞろぞろ出て来た。一番あとから、真蒼な顔をしておりて来たのは大宅三四郎であった。

大宅はすぐに一先ず留置所へ入れられた。「よく逃げようともしないでまごまごしていたね」と佐々木警部は一同を見まわしながら上機嫌で言った。

「ちょうど役所へ出るところだって言ってました」と一人の私服が汗を拭き拭きまるで自分の手柄のように言った。

「れこに泣かれたのは弱ったなあ」と第二の私服が小指を出しながら、第三の私服に向って内密(ないしょ)で言った。「かわいそうに、ことによるとあの女も一生後家(ごけ)さんで暮さにゃならんぜ」