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やまもとゆうぞうしのきょうち

山本有三氏の境地

宮本 百合子

「文芸」1937(昭和12)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,155 字 · 32 页

青空文庫

作者は、允子を嘗て不正な町医者と正義心から闘った女として描いている。法律の制裁がこわいより、我心が許さないと堕胎をしなかった若い女として描いている。新聞の脱税事件、収賄事件に公憤を感じざるを得ない允子である。息子に真理を教えようとして、今日の日本の母としては最も進歩的に性の教育にさえのり出した母であった。パーウェルの母のように出来ないことは、彼女の小市民としての環境からうなずけるとして、果して、現実に允子が子への無限の愛を抱いて生きているならば、そういう「世間を知らない」「一本調子の」若者らが、この社会の不合理につき動かされて、様々の艱難にとびこんでゆく、その純な心根にこそ、先ず可憐に堪えぬ万斛の涙があろうと思う。自分が正しいと信じた上は、屈辱に堪えて私生子を生もうとした允子の心は、子に対した場合は実に俗人的になって、「真理を愛し真実な生活をいとなむような人間にしたい」ことと、子供に「社会の中枢に立って立派に働いてもらいたい」心持とを、いつの間にやらごったにしている。この混同は作者によって計画的にとりあげられているのではなく、作者の内部に在るものが寧ろ自然発生的に作品の裡にその反映を見せているのである。