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やまつばき

山椿

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1948(昭和23)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,911 字 · 32 页

青空文庫

三日ぶりで家に帰った彼は、暴びた気持で夕餉の酒を飲んでいた、酔いはなかなか起こらず、疲れた神経は棘とげしくなる許りだった。彼は眼の前に坐っている妻の、固い非人情な身構えや、陶器のように冷たい衿足を見ながら、ふとそれを従妹のみちと置き替えていた。

――荒神様は罰を当てる神様なんですってね。

突然まじめな顔でそんなことを云いだす。たいてい座には誰かいて、あっけにとられながら、「荒神は台所の神でしょう」とか「専門に罰を当てる神様というのはないでしょう」などと云う。みちは確信のある顔でこう断言する。

――あら、だってそう云いましたわよ。

いちど是はこうだと聞けば、そのとおり信じて少しも疑わない「だってそう云いましたわよ」というのが彼女の口癖であり唯一の証明である、「そらまた出た」と云ってみんな笑いだす。……当時は苦にがしいと眺めていたその情景が、主馬にはいま、かなしいほど懐かしく思い出された。そういえば、此の頃は誰も来ない、来ても食事刻はよける、坐って酒を飲むような者はごく稀で、用事が済めばさっさと帰ってゆく。あの頃はこんなではなかった、家の中は賑やかで温たかく、話したり笑ったりする声が、絶えなかった、それが今はどうだ、まるでこれは喪中の家のようではないか。