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やまつばき
山椿
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1948(昭和23)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,911 字 · 32 页
良三郎は白じらしい微笑をうかべ、人を馬鹿にした調子で悠くり首を振った。
「酒なら御馳走になりますが説教は勘弁して呉れませんか、私にはなにより苦手ですから」
「なにすぐ済むよ」主馬はさりげなく云った、「それはね、これからまじめに勤めて貰いたいということなんだ、私が栗原に頼んで作事方へ呼んだには、それだけの考えもあるし責任も感じている、できるだけ力になるから、ここでひと奮発してみないか」
「然しちょっと高価くつきますぜ梶井さん、相当に高価くつくがいいですか」
良三郎は毒どくしく唇を歪めた。主馬はその顔を審しげに見ていたが、その眼はしだいに平静の色をなくしていった。
「高価くつくとはどういう意味なんだ、もっとはっきり」
「云いましょうか」良三郎は主馬の言葉におっかぶせて、ぐっとあぐらをかいたが、すぐまたにやりと笑った、「だがまあこの次にしましょう、墓の中のことなんか別に急ぐ必要もないでしょう、掘り返してみたところで、死んだ者が生き返る訳じゃあないですからね」
「それは私を脅す意味なのか」
「さあどうでしょう、私が残念なのは、或る人の葬式に立会えなかった、ということなんです、立会っていたら、……さよう、私は棺の蓋を明けましたね」