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やまつばき
山椿
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1948(昭和23)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,911 字 · 32 页
主馬は額からさっと蒼くなった。良三郎は濁った眼でそれを眺めながら、もはや疑いのない勝利を楽しむように、悠くりと、然し冷酷にこう続けた。
「蓋を明けると毒にやられる、とんでもない、棺の中はただ匂いがするだけですよ、毒どころか唯の匂い、――つまり血の匂いだけですよ」
「ではなぜそうしなかった」主馬はある限りの力で自制しながら云った、「それだけ確信があるなら、どうして蓋を明けに来なかったんだ」
「今だって間に合いますさ、……なに、墓を掘ってみればわかるこった、やってみますかね」
主馬は右手を大きく振って、良三郎に頬打をくれると、更にとびかかって捻伏せた。良三郎は首を振りながらもがき、主馬の手へ噛み付いた、主馬は噛ませておいて殴った。力いっぱい、頬骨の鳴るほど殴りつけた。彼の眼からぽろぽろ涙がこぼれ、それが良三郎を濡らした。殴るだけ殴ると、彼はそこへ坐って、喘ぐ息を抑えながら云った。
「貴様の察しどおりだ、きぬは病死ではない、ではどうして死んだか、……性根まで腐った貴様などにはわかるまいが、見せるだけは見せてやる、きぬの遺書だ、読んでみろ」
主馬はふところから封書を出して、いぎたなく倒れている良三郎の前へ押しやった。