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やまみち

山道

中里 介山

「改造」1926(大正15)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,368 字 · 15 页

青空文庫

地球の海底の最も低い処も南北の両端もまだ科学の力では開かれてはいないはず、つまり科学の力はまだ天上地下僅々五哩の範囲にも達してはいない、肺病も癩病もまだ科学の力では癒らない、我々は大震災の来ることを予知することが出来ないのみか――その日、その日の天候でさえも科学の力を信頼するわけには行かないではないか、といって僕は科学を否定する者でも軽蔑するものでもありませんがね」

会社員風の青年がいいました。

「科学科学というけれども由来、人生に対する偉大なる貢献を遂げた発明家はいわゆる学者の中から出ないで無学者の中から出たのが不思議ではありませんか――ワットにしてもエジソンにしても」

「しかし彼らはプロフェサアでなかっただけで事実は偉大なる科学者です、そこで我々は科学の偉力を信じないわけには行かないが科学の傲慢を許すにはまだ早いようです」

穏健なる紳士がこういいながら立ち上ると一同も立ち上って歩き出したが足よりも口の方が盛んである。

「ナポレオンが露西亜を敗走したのを単に寒気の襲来と防寒具の不足とに帰するような頭で、万象の葛藤を批判論断されてはたまりません……」

「ですけれども浅草の観音様が大震災の時に焼け残ったのは、紫の雲に乗った観世音菩薩の威神力がそうあらしめたのではなく、あの四方の空地と樹木と消防の尽力とがそうさせた