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みんざんのいんし

岷山の隠士

国枝 史郎

「大衆文芸」1926(大正15)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,095 字 · 19 页

青空文庫

安祿山と呼応して、永王は叛旗を飜えした。弟の襄成王と舟師を率い、江淮に向かって東下した。

李白は素敵に愉快だった。

「うん、天下は廻り持ちだ。天子になれないものでもない」

こんな事を考えた。

詩人特有の白昼夢とも云えれば、儻不羈の本性が、仙骨を破って迸しったとも云えた。

意気頗る軒昂であった。自分を安石に譬えたりした。二十歳代に人を斬った、その李白の真骨頭が、この時躍如としておどり出たのであった。

「三川北虜乱レテ麻ノ如シ、四海南奔シテ永嘉ニ似タリ、但東山ノ謝安石ヲ用ヒヨ、君ガ為メ談笑シテ胡沙ヲ静メン」

などとウンと威張ったりした。

「試ミニ君王ノ玉馬鞭ヲ借リ、戎虜ヲ指揮シテ瓊筵ニ坐ス、南風一掃胡塵静ニ、西長安ニ入ッテ日延ニ到ル」

凱旋の日を空想したりした。

ところが河南の招討判官、李銑というのが広陵に居た。永王の舟師を迎え討った。

永王軍は脆く破れた。

永王は箭に中って捕えられ、ある寒駅で斬殺された。そうして弟の襄成王は、乱兵の兇刄に斃された。

李白は逃げて豊沢に隠れたが、目つかって牢屋へぶち込まれた。

「どうも不可ねえ、夢だったよ」

憮然として彼は呟いた。