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みんざんのいんし

岷山の隠士

国枝 史郎

「大衆文芸」1926(大正15)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,095 字 · 19 页

青空文庫

「あの、先生にはどう思われますので?」

「俺か、俺はな、そんなつまらない事は、考えない方がいいと思うのさ。形而上学的思弁といって、浮世を小うるさくするものだからな」

これには李白は何となく、教えられたような気持がした。

「不味い物ばかり食っていると、肉放れがして痩せてしまう。美味物を食え美味物を」

こう口では云いながら、稗だの粟だの黍だのを、東巖子は平気で食うのであった。

「綺麗な衣裳を着るがいい。そうでないと他人に馬鹿にされる」

こう云いながら東巖子は、一年を通してたった一枚の、穢い道服を着通すのであった。

「出世をしろよ、出世をしろよ、いい主人を目つけてな」

こう云いながら東巖子は、山から出ようとはしないのであった。

彼は言行不一致であった。

それがかえって偉かった。

彼は盛んに逆理を用いた。

李白は次第に感化された。儻不羈の精神が、軽快洒脱の精神に変った。

ある日突然東巖子が云った。

「お前は山川をどう思うな?」

「山は土の盛り上ったもの、川は水の流れるもの、私にはこんなように思われます」

「さあさあお前は卒業した。山を出て世の中へ行くがいい」

――で、翌日岷山を出た。