轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
くずれるおにかげ
崩れる鬼影
海野 十三
「科学の日本」博文館、1933(昭和8)年7月~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,100 字 · 69 页
私は嫦娥などという中国人のことなどはよく知らないのですが、しかしお月様の中に棲んでいるという白兎が、ピョンと一跳ねして、私の足許へ飛んできそうな気がしました。
「だが向うの森を御覧」と兄は又別のことを云いだしました。「あの森蔭の暗いことはどうだ。あまり月が明るいので、却ってあんなに暗いのだ」
「なんだか化物がゾロゾロ匍いまわっているようですね」
そうは云ってしまったものの、私は失敗ったと思いました。何という気味のわるいことを口にしたのでしょう。俄かに襟元がゾクゾクしてきました。
「ほんとに神秘な夜だ。東京にいては、こんなに月の光や、星のことなどを気にすることはないだろう。こんな高い山の頂きにいると空の化物に攫われてしまいそうな気がしてくる」
私は先程の元気も嬉しさもが、いつの間にか凋んでしまったのに気がつきました。ザワザワと高く聳えている杉の梢が風をうけて鳴ります。天狗颪のようです。なんだか急に、目に見えぬ長い触手がヒシヒシと身体の周りに伸びてくるような気がしてきました。私はいつの間にか、兄の袂をしっかり握っていました。
丁度そのときです。
微かながら、絹を裂くような悲鳴が――多分悲鳴だと思ったのですが――遠く風に送られ何処からか響いたように感じました。