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あらしのよる

嵐の夜

小川 未明

「宗教界」1906(明治39)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,980 字 · 6 页

青空文庫

」といって、しっかと抱き締めて、さっさと広々とした沙原の方へ切れた草履をひきずって、歩んで行きかけますと、遠くの沖の方を往来します白帆の影が見えます。

足許まで、打ち寄せる雄波、雌波は、「かねちゃん、かねちゃん、やー。」といって転がるように笑いさざめく。真青な空! 真青な海! 白い鴎がふわふわと飛んでいる。ああ、はればれとしたお天気で気持のいいこと。かねちゃんは、涼しい眸を見張って、父さんの、今朝出て行きました、沖の方を眺めていました。

「ああ、父さんが恋しいことよ。」と、ほろりとして涙が頬を伝ったのであります。ひたひたと破れた衣の裾を吹く、沖の風は身に浸みて寒い。小猫は懐裡に抱かれたままで、ごろごろうなっています。

かねちゃんが、家へ帰っても、まだ母さんは帰って来ませんでした。柿の木の下に、敷いた筵の上は、栗の林に遮られて、今は日の光りも蔭って、木の葉や、草の葉の上に風がさわさわと鳴り、にわかに、いつの間にやら大空に白雲がちらばったのであります。その内に天地は暗くなって、風が烈しくなって、栗の樹や、柿の木や、松林に鳴る音高く、萩の枝などは、もまれにもまれて、見渡すかぎり田畑は一面に白っぽく、稲や、芋の葉のひらひらとなびくのであります。