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かわなみ
川波
久生 十蘭
「別冊文藝春秋 第五十一号」1956(昭和31)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,022 字 · 18 页
そのキャンプで和田は倫子と行きあった。
倫子はスラックスをはいて背負袋を肩に掛け、虚脱したようなうつろな表情で避難民の中に坐っていた。
「倫子さんじゃないか、和田だよ」
倫子の肩に手をかけて揺すると、倫子は、
「あっ、和田さん」
といって、子供のように顔に手をあてて、さめざめと泣きだした。
「和田さん、辛かったのよ。ほんとうに辛かったの」
「三池はどうしたの」
「高孝はダーレムまで来たところで、銃撃されて死んだわ……でも、よかった。和田さんに逢えて」
「豊川はどうした。君に逢いに行ったんじゃなかったのか」
「えゝ、来たわ。でも、高孝がどうしても逢わせてくれなかったの。たいへんなことだったらしいけど、無駄なことだったわ。胸を悪くして、いま瑞西のレイザンのサナトリウムにいるんです。高孝が死んでから、治兵衛の手紙をポケットから見つけたのよ。それでわかったの」
倫子は戦争がすむまでと、あきらめていたようだったが、和田に逢って元気になり、どんなことがあっても瑞西へ入るのだと毎日のように川筋を辿って、泳いで渡れそうな場所を探していた。
「いいところを見つけたわ」
ある日、帰ってくるなり、倫子が勢いこんで和田にいった。