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かわなみ

川波

久生 十蘭

「別冊文藝春秋 第五十一号」1956(昭和31)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,022 字 · 18 页

青空文庫

「手紙ではだめなのか」

「三池のことだから、電話にも寄りつけないような状態にしてあるのだろう。いますぐ行けば、一度くらい、逢うチャンスを掴めるだろうが、暇をおくと、どこへ隠しこんでしまうか知れたもんじゃない……辛いところだよ。クロイドン行の第一便は八時十五分、トゥルーズ行の第一便は八時二十分だ……賭ける気があるなら、賭けてみろ。明日、おれがどっちの旅客機に乗ると思うか」

独逸の旗色が悪くなると、巴里に残っていた日本人は、大使館の命令でベルリンに集結したが、二十年の一月匆々、東西から敵軍が迫ってきて、ベルリンの町のいたるところにバリケードが築かれはじめた。

三月の中旬になると、米軍の戦闘機が傍若無人に低空射撃を加えるようになり、ソ連軍はベルリンの西六十粁のオーダー河の線まで近づき、ベルリンもあぶなくなったので、南独逸のバスガスタインに移った。

瑞西領と独領の国境になっているグレゲンツから、三十メートルあるかなしの川を隔てたすぐ向うに、瑞西の町の灯が見えるのに、査証がなくて入国できない独逸やポーランドの避難民が千人ばかり、赤十字キャンプに収容されていた。