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じゅんさじしょく

巡査辞職

夢野 久作

「新青年」1935(昭和10)年11~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,907 字 · 63 页

青空文庫

「マユミさんと一緒に寝とったんか」

一知は首筋まで真赤になった。井戸端で水を汲んでいるマユミの背後姿をチラリと見た。

「いいえ。彼女は毎晩、両親の吩付で直ぐ向うの中の間に寝る事になっておりますので……」

「ホントウか。大事な事を聞きよるのだ」

「ホントウで御座います。一緒に寝た事は……今までに……一度も……」

そう云う中に一知は興奮したらしく早口になりかけたが、忽ちサッと青くなって口籠った。云うのじゃなかった……といった風に唇をギュッと噛んで、忙しく眼瞬きをした。その顔を草川巡査は穴の明く程凝視したので、一知はイヨイヨ青くなって頸低れた。

「フウム。妙な事を云うのう……マッタクか……それは……」

一知は怨めしそうな、悲痛な顔を上げて草川巡査の顔を見たが、その瞳には一パイに涙が溜っていた。

「ハイ……しかし……それは……今度の事と……何の関係も無い事です」

「うむうむ。そうかそうか。それでラジオの音に紛れてマユミさんと一緒に寝よったんか。ハハハ」

一知は頸低れたまま涙をポトポトと土間へ落した。微かにうなずいた。

「アハハハ。イヤ。そんな事はドウでも良え。お前達が寝よる位置がわかれば良えのじゃが……ところで、それにしても怪訝しいのう。