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じゅんさじしょく

巡査辞職

夢野 久作

「新青年」1935(昭和10)年11~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,907 字 · 63 页

青空文庫

……これが俺の失敗のタネになりはしないか……永い間の高文の試験準備で、疲れ切っている俺のアタマは、こうした現実の出来事に向かないくらい弱々しく、過敏になっているのではないか……。

……とにも角にも、どこまでも慎重に……慎重に取りかからねばならぬ……あくまでもヘマをやってはならぬ……。

といったような、武者振いがまだ具体的に現われて来ない前のような神秘的な戦慄に、草川巡査は襲われて仕様がないのであった。そうしてそのドキドキした予感を中心にして、深良屋敷の惨劇を裏書きしているらしい色々な過去の前兆が、眩しいくらい明るい、又はジメジメと薄暗い木立の中を押分けて行く草川巡査の、勉強に疲れた記憶力の中に、今更のようにマザマザと浮み上って来るのであった。

深良屋敷というのは村外れの国道から二三町北へ曲り込んだ、小高い丘の上の雑木林に囲まれた小さな一軒家であった。もっともズット以前の明治三十年頃までは、深良家の先祖代々が住んでいた巨大な母家が、雑木林の下の段の平地に残っていたが、それが現在の牛九郎爺さんの代になると、極端な労働嫌いの算盤信心で、経費が掛るといって、その一段上の雑木の中に在るタッタ三室しかない現在の離家に移り住むようになった。