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こうがくはくしすえひろきょうじくん

工学博士末広恭二君

寺田 寅彦

「科学」1932(昭和7)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,788 字 · 12 页

青空文庫

と云っていた。部内の世話は勿論、部員学生の一身上の心配までした。

鉄腸居士を父とし、天台道士を師とし、木堂翁に私淑していたかと思われる末広君には一面気鋒の鋭い点があり痛烈な皮肉もあった。若い時分には、曲ったこと、間違ったことと思う場合はなかなか烈しく喰ってかかることもあったが、弱いものにはいつもやさしかった。婢僕などを叱ったことはほとんどなかったそうである。親思いで、子煩悩で、友をなつかしがった。

若い時分キリスト教会に出入りして道を求めたが得る所がなかったと云っていた。禅に志して坐禅をやったことがあったが、そこにも求めるものは得られなかった。晩年には真宗の教義にかなり心を引かれていたそうである。

学生時代には柔道もやり、またボートの選手で、それが舵手であったということに意義があるように思われる。弓術も好きであって、これは晩年にも養生のための唯一の運動として続けていたようである。昔は将棋を試みた事もあり、また筆者などと一緒に昔の本郷座で川上、高田一座の芝居を見たこともありはしたが、中年以後から、あらゆる娯楽道楽を放棄して専心ただ学問にのみ没頭した。