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いちろうのみせ

市郎の店

豊島 与志雄

「國民六年生」1942(昭和17)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,067 字 · 9 页

青空文庫

日の光が晴れやかにふりそそいでいて、港から沖合まで、青々とした海が見渡されました。港の中には、多くの船が、大きいのや小さいのや、白いのや黒いのや、煙突から煙を出しているのやら出していないのやら、あちこちに浮んでいました。

その方を眺めながら、市郎はぼんやり歩いていますと、そこの木の下に、画架を据えて絵を書いている人がありました。

山川さんでした。

山川さんは、大人たちの間では変り者だという評判でしたが、子供たちにとっては、いっしょによく遊んでくれるおもしろい人でした。

市郎のお母さんが、まだ独身でいる山川さんの着物の仕立直しなどを頼まれていましたので、市郎もよく山川さんを知っていました。

市郎は山川さんのところへいって、おじぎをしました。

山川さんは、やあ、といった調子で、画筆を置いて、タバコに火をつけました。

「散歩かね。」

市郎はそうきかれて、ちょっとへんな気がして、眼をぱちくりさせました。

山川さんはタバコを吸いながら、市郎の顔を見ていましたが、急に思い出したようにいいました。

「君は、なんだね、この頃、夜店に出てるそうじゃないか。」

「ええ、時々、監督にいってるんです。