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いちろうのみせ
市郎の店
豊島 与志雄
「國民六年生」1942(昭和17)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,067 字 · 9 页
そうしていると、何をしてるかと思って、見物人ができてくる。二人でも三人でも、立ち止る者ができれば、もうしめたものだ。品物は売れるよ。人間というものはね、ほかの人間がなにか仕事をして動いてるのを見るのが、いちばん好きらしいんだ。僕だって経験がある。僕の絵なんか見ようともしない人たちでも、僕が絵を書いているところに来あわせると、長い間立ち止って見ているからね。絵を見るんじゃなくて、絵を書くところが見たいんだね。」
市郎も、山川さんが絵を書いているのを見るのがおもしろくて、長い間見ていたことがありました。
それを思い出して、市郎は頭をかきました。
「君のことをいってるんじゃないよ。人間て、そうしたものさ。だから、君はその夜店で、貝殻をせっせと磨くんだね。そうすれば見物人ができる。見物人ができれば、品物もしぜんに売れる。どうだね、やってみるかね。」
「やりましょう。」
「うん。それに、道具立もなるべく人目につくものがいい。僕のところに来給え、よい物を貸してあげよう。」
山川さんは画架を片づけはじめました。
「もうよろしいんですか、その絵は。」
「なあに、こんなものはいいのさ、君の気性が僕は気に入った。