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じょうしき
常識
豊島 与志雄
「改造」1934(昭和9)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,237 字 · 33 页
或は私のなかに結婚などというセンスが全然欠けていたのかも知れない。
「僕はあのひとと結婚するくらいなら、むしろみよちゃんと結婚しますよ。」と私はお幾に断言した。それから云い添えた。「でも安心なさいよ。みよちゃんとは結婚もしなければ、指一本ふれもしませんから。僕はみよちゃんの小父さんだからなあ。」
もし蒼白い微笑というものがあるとすれば、私はそうした微笑を浮べていたろう。みよ子が銚子をもってきた時、私はその可愛い手に握手をして云った。
「僕はいつまでもみよちゃんの小父さんだよ。覚悟しておいで。芸者になっても、何になっても、しっかりしていなくちゃいけない。そうでなけりゃ、ぶんなぐってやるよ。」
みよ子はその子供の顔に、唇の片端をきゅっとまげて、こまっちゃくれた反抗の表情をした。眼が女らしく笑って、肉の足りない※(「臣+頁」、第4水準2-92-25)がつんと澄している……。
私は胸がすっきりと朗かになった。然しその朗かな中に妙に淋しさがすくった。その淋しさは後まで続き、それが私を少し高くへ引上げてくれて、私はなおあなたと連立って人中に出ることが出来た。
私はまだあなたを愛しているような風を装った。