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ばくまついしんかいこだん

幕末維新懐古談

高村 光雲

72 総領の娘を亡くした頃のはなし

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,380 字 · 7 页

青空文庫

まことに残念で、今日でもこればかりはどうも致し方もないことではあるが、残り惜しく思われます。娘は十六歳でありました。すべて子供は皆同じで、いずれに愛情のかわりは御座いませんけれども、この総領娘は私が困苦していた盛りに手塩にかけただけに、余計に最愛しまれるように思われます。

こういう苦しい時代であったために芸事も多分に仕込むことも出来ませんでしたが、初めは三味線をやらせました。ところがどうもこれはその娘の器でないかのように私には思われました。家内が長唄を少しやるので、それで、家でも母がチョイチョイ稽古をつけたりしましたのを私が聞いていて、どうもそう感じられました。当人も三味線を取る時はどうも気が進まないようにも見えました。それで手習いとか、本を読む方のことをさせて見ると、よろこんで筆を取り書物に向いまして、普通には出来るようであります。それで、この娘は三味線のような遊芸はやめさせた方が好かろうと三味線をやめさせました。これはまだ西町時代のことで本人は七歳位の時です。それから娘が筆を持つ事が好きという処から、その頃竹町の生駒様の屋敷内にいた狩野寿信という絵師のお宅へ稽古に上げました。