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ばくまついしんかいこだん

幕末維新懐古談

高村 光雲

72 総領の娘を亡くした頃のはなし

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,380 字 · 7 页

青空文庫

学校奉職時代の前に少し遡り、話し残したことを補充して置きたいと思います。

学校へ入りましたのは仲御徒町一丁目に住まっていた時のことで、毎日通勤するようになってから、住居はなるべく学校へ近い方が便利だと思いました。それにこの御徒町附近一帯は軒並み続きで、雑沓するので、年寄りや子供には適した処でない。衛生の方からいっても低地で湿気が多く水が非常に悪いので、とうから引っ越したいと思ってはいましたが、そういう訳になかなか参りませんので、よんどころなくそのままになっておりました。しかるに今度学校へ出るようになって、学校へ近い方が便利という必要から、何処か格好な家がないかと気を附けるようになりました。

こういう時には私の父は、前にも申した通り、至って忠実な人であるから、隠居仕事に学校最寄りの方面を方々と探して歩きました。

それでもなかなか格好な家が見当らないと見えて幾日か過ぎましたが、或る日、父は、「今日こそ好い家を見附けた」といってその模様を話されるところを聞くと、その家は学校へ三丁位、土地が高燥で、至って閑静で、第一水が良い。いかにも彫刻家の住居らしい所という。