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こうふくのはさみ

幸福のはさみ

小川 未明

「婦人界 6巻11号」1922(大正11)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,458 字 · 9 页

青空文庫

どの家も戸を締めてしまって、わずかに、戸のすきまから、内部に点っている燈火の光が、寒い、さびしい外の闇の中に、幽かな光を送っているばかりでありました。

小さな、田舎町は、おなじように、早くから、どこの店も戸を締めてしまいました。正吉は、平常、歩き慣れていましたので、一筋の道をたどってゆきました。どこか遠くの方で、犬のないている声が聞こえたのであります。ようやく、町に入ろうとしました。するとそこにお寺がありました。

寺の境内にはたくさんの木が植わっています。そして、いまは、いずれも黄色に真っ赤に、葉が色づいていました。しかし、それらは、夜でありますから、ただ音だけが聞こえるばかりで、はらはらと風の襲うたびに騒がしく散っていました。

正吉は、お寺の門前に、ただ一つ提燈をつけて、露店を出している人があるのを遠くからながめました。夏の夜や、縁日の晩などには、よくこの町にも露店が出ましたけれど、こんなに寒くなってからは、出歩く人も少ないので、ああして露店を出しても品物を買うものがないだろうにと、思われたのでありました。

その提燈の火は、紙がすすけているので、暗うございました。